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世界初、膵臓外科手術の安全性を高める新たな指針を開発

本研究のポイント

?膵頭十二指腸切除術は、膵臓がんや胆管がんなどに対して行われる高難度手術であり、術後の重篤な合併症や死亡リスクが高いとされています(術後死亡率約3%、重症合併症率30?40%)。
?本研究では、National Clinical Database(NCD)※1のRisk Calculatorによって算出される2つの予測値が、術後経過不良と強く関連することを明らかにしました。
?この研究成果は、膵臓外科手術の安全性を高める世界初の指針として注目されます。

研究概要

 富山大学学術研究部医学系 消化器?腫瘍?総合外科の木村七菜 病院助教、藤井努 教授らの研究グループは、膵頭十二指腸切除術における術後経過不良の予測因子を統計的に解析し、新たな手術適応指針を開発しました。
 解析の結果、本邦のNational Clinical Database(NCD)のRisk Calculator(リスクカリキュレーター)に基づく以下の2項目が術後経過不良の発生と強く関連していることが示されました。
 1) 術後ADL低下の予測発生率
 2) Clavien-Dindo分類※2グレードIV以上の予測発生率
 これらの因子を手術適応の判断基準とすることで、より安全な手術の実施が可能になります。これは世界で初めての報告となります。
 本研究成果は、2025年5月28日(水)に、国際学術誌「Annals of Gastroenterological Surgery」のオンライン版に掲載されました。

用語解説

※1)National Clinical Database(NCD)
National Clinical Database (NCD) は、一般社団法人National Clinical Database が運営するデータベースで、医療の質向上のために国内の医療現場の情報が収集されている。主に、手術に関する詳細なデータや、インターベンション、剖検などの症例情報が登録されている。

※2)Clavien-Dindo 分類
Clavien-Dindo 分類は、2024 年に公表された手術合併症に関する分類で、術後合併症の定義と重症度の評価を容易にし、周術期における有害事象の記録と報告を標準化するために開発された。
グレードⅠ:正常な術後経過からは逸脱するが薬物?外科?内視鏡?放射線学的治療を要さないもの
グレードⅡ:制吐薬、解熱薬、鎮痛薬、利尿薬以外の薬物療法を要する
グレードⅢ:外科的、内視鏡的、放射線学的治療を要する
グレードⅣ:ICU 管理を要する、生命を脅かす合併症
グレードⅤ:患者の死亡

研究内容の詳細

世界初、膵臓外科手術の安全性を高める新たな指針を開発[PDF, 530KB]

論文情報

論文名

Risk evaluation of the NCD risk calculator for open pancreaticoduodenectomy in elderly patients: A validation study

著者

木村七菜1, 伊藤綾香1, 酒井彩乃1, 平野勝久1, 八木健太1, 武田直也1, 渋谷和人1, 吉岡伊作1, 室谷健太2, 藤井 努1
1 富山大学 学術研究部 医学系 消化器?腫瘍?総合外科
2 久留米大学 バイオ統計センター

掲載誌

Annals of Gastroenterological Surgery (2025 年 5 月28 日(水)付け)

DOI

https://doi.org/10.1002/ags3.70045

お問い合わせ

富山大学学術研究部医学系
教授 藤井 努

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