手指の腱や筋肉の再建手術に革新! ~目覚めたまま実施する新術式によって最適な術式選択が可能に~
ポイント
?四肢不全麻痺、筋肉?腱断裂に対して実施される従来の筋腱再建術※1)では、術後の機能回復の予測が困難であった。
?本研究では、これまで見ることのできなかった手術中の手指の動きや筋肉の収縮を観察しながら実施する覚醒下手術法を世界で初めて開発した。
?本術式によって、手術中に筋肉の収縮や腱の滑走距離に基づいた筋腱再建術を実施することが可能になった。
?手術中に無痛状態で実施するリハビリテーションを組み合わせることで、脳と神経回路の再構成を促進し、術後の手指運動機能のさらなる向上が期待された。
概要
富山大学学術研究部医学系 整形外科?運動器病学講座 頭川峰志講師および川口善治教授、糸魚川総合病院 長田龍介医師らの研究グループは、手指の麻痺に対する筋腱再建術において、最適な筋肉?腱の選択方法を示す客観的な指標を世界で初めて明らかにしました。
従来、筋肉や腱の機能は、その大きさや外力による受動的伸張性、および電気刺激による収縮反応を基に評価されてきました。しかし、患者自身の意思による能動的な筋収縮特性に応じて手術方針を決定する手法は存在しませんでした。
本研究では、痛覚を伝える知覚神経のみを選択的に麻痺させることで、患者の意識を保ったまま、手術中に自分の意思によって手指運動が可能な状態を実現しました(覚醒下手術)。
これにより手を動かす9つの筋腱の自動収縮距離と他動伸張距離、再建手術までの経過時間、言語指示に対する筋収縮パターンを定量化し、これらのパラメータ間の関係性を世界で初めて数値化しました。
この研究成果により、筋腱再建術を実施する際に、科学的根拠を持った術式選択が可能となりました。さらに、覚醒下手術の環境を活用して手術中に無痛状態でリハビリテーションを実施することで、術後成績がさらに向上する可能性が示されました。今後の筋腱再建術や術後のリハビリテーションにおいて重要な知見となることが期待されます。
本研究成果は、米国形成外科学会機関紙「Plastic and Reconstructive Surgery」に2025年 8月13日に掲載されました。
用語解説
※1)筋腱再建術(きんけんさいけんじゅつ)
麻痺あるいは筋腱欠損による機能障害を回復させるために、麻痺のない筋腱を付着部で切離し、切離した部分を他の部位に縫着し機能を再建する方法(腱移行術)や、他部位から筋腱を移植する方法(腱移植術、筋肉移植術)がある。移行する筋腱の選択や縫合の緊張度のバランスが成功のカギである。例えば手関節屈筋3つ(橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、長掌筋)のうちの1つを残し機能を温存しつつ、他の2つを指の伸筋腱につなぎかえることで指の伸展を再建することができる。
研究内容の詳細
手指の腱や筋肉の再建手術に革新!~目覚めたまま実施する新術式によって最適な術式選択が可能に~[PDF, 483KB]
論文情報
論文名
WALANT surgery study on active contraction distance and characteristics of musculotendinous units as a basis for tendon transfer
著者
Mineyuki Zukawa*, Ryusuke Osada, Tatsuro Hirokawa, Hikaru Wada, Masatoshi Satomi, Kanoko Horikawa, Yoshiharu Kawaguchi.(*責任著者)
掲載誌
Plastic and Reconstructive Surgery
DOI
https://doi.org/10.1097/PRS.0000000000012298
お問い合わせ
富山大学学術研究部医学系 整形外科?運動器病学講座
講師 頭川峰志
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