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破骨細胞のエネルギー代謝制御分子SIK3は、骨粗鬆症の新しい治療標的となる

研究のポイント

  • 骨粗鬆症(注1)の新しい治療標的としてSIK3(注3)というタンパク質を同定した
  • 破骨細胞(注2)が骨を溶かす際、細胞内のエネルギー制御分子であるSIK3が活性化した
  • Sik3遺伝子の欠損や、その阻害剤処理により、破骨細胞の骨吸収作用が抑制された

概要

富山大学学術研究部医学系整形外科 川口善治教授、亀井克彦(当時博士課程4年)らの研究グループは、大阪大学大学院医学系研究科?生命機能研究科 箭原康人准教授、岐阜大学工学部 竹森洋教授との共同研究によって、SIK3の阻害剤であるプテロシンB(注4)という天然物質に、破骨細胞の機能を抑制する作用があることを発見しました。
加齢とともに骨の密度と強度が低下し、骨粗鬆症を発症します。川口教授らの研究グループは、骨の吸収を担う破骨細胞においてSik3遺伝子を欠失するマウスを作製したところ、Sik3欠失マウスでは破骨細胞の機能が低下し骨量が増加することを発見しました。さらにSIK3阻害剤であるプテロシンBが、破骨細胞の分化を抑制する作用を持つことを明らかにしました。以上の結果から、破骨細胞のエネルギー代謝制御分子であるSIK3は、骨粗鬆症の有望な治療標的であると考えられました。プテロシンBは、骨粗鬆症治療薬のリード化合物(注5)になりうると考えられます。
本研究成果は、米国骨代謝学会機関紙「Journal of Bone and Mineral Research」に2024年7月20日に掲載されました。

用語解説
  • (注1) 骨粗鬆症
    骨の量(骨量)が減って、骨の性質(骨質)が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。年齢とともに発症頻度が高くなる傾向があり、特に閉経後の女性で発症しやすくなります。
  • (注2) 破骨細胞
    古い骨を吸収することで骨の新陳代謝を担う細胞です。その機能が過剰になると、骨の吸収が進行し、骨粗鬆症を発症する原因となります。破骨細胞の機能を調整することで、骨の吸収を抑制し、骨粗鬆症の進行を抑えることが可能になります。
  • (注3) SIK3
    塩誘導性キナーゼ(Salt Inducible Kinase)の一種です。タンパク質をリン酸化して細胞内の情報伝達に関与するタンパク質およびそのタンパク質をコードする遺伝子のことを指します。
  • (注4) プテロシンB
    ワラビに含まれる発がん物質として知られるプタキロサイドが、アク抜きの過程でアルカリに晒されることで生じるものがプテロシンBです。プテロシンBは安定な物質であり、発がん性はありません。
  • (注5) リード化合物
    薬を開発する上で出発点となる化合物のことです。この化合物の形を変更することでより良い化合物を探し、改良が加えられます。

研究内容の詳細

破骨細胞のエネルギー代謝制御分子SIK3は、骨粗鬆症の新しい治療標的となる[PDF, 683KB]

論文情報

論文名

Impact of the SIK3 pathway inhibition on osteoclast differentiation via oxidative phosphorylation

著者

Katsuhiko Kamei、Yasuhito Yahara*、Jun-Dal Kim、Mamiko Tsuji、Mami Iwasaki、Hiroshi Takemori、Shoji Seki、Hiroto Makino、Hayato Futakawa、Tatsuro Hirokawa、Tran Canh Tung Nguyen、Takashi Nakagawa、Yoshiharu Kawaguchi、(*責任著者)

掲載誌

Journal of Bone and Mineral Research

DOI

https://doi.org/10.1093/jbmr/zjae105

お問い合わせ

富山大学学術研究部医学系 整形外科
教授 川口 善治

  • TEL:076-434-7353
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